先週、川越で製造業を営む社長と資金繰りの話をしていて思ったのですが、埼玉の中小企業ほど「数字は税理士に任せている」と口にする方が多い気がします。悪いことではありません。ただ、資金繰りの改善は税務申告とは別の作業で、経営者自身が握っていないと回り始めない。今日はそんな話を、現場の空気ごと書いてみたいと思います。

埼玉県内には約38万の事業所があるといわれ、その大半が従業員20人未満の小規模事業者だ。都心へのアクセスの良さと、まだ土地が残っている郊外の広さ。この二つが同居しているのが埼玉らしさで、だからこそ設備投資も在庫も抱えやすく、資金繰りの波が大きくなりやすい。改善の第一歩は、この地域特性を自覚することから始まる。

「黒字なのにお金がない」埼玉の中小企業でよく聞く声

坂戸市で建設業を営む方と話したとき、決算は3期連続の黒字なのに、月末になると通帳を見るのが怖いと打ち明けられたことがある。珍しくない。利益が出ているのに現金が足りないのは、多くの場合、利益と現金のタイミングがずれているからだ。

建設業や製造業では、材料費や外注費を先に払い、入金は工事完了の2〜3か月後という現場が当たり前にある。売上100万円の仕事でも、先に60万円出ていって、回収は60日後。この間の資金を自前で埋められないと、黒字倒産のリスクが顔を出す。埼玉は製造・建設の比率が全国平均より高い地域だから、この「ズレ」に苦しむ経営者を本当によく見かける。

なぜこの構造が見えにくいのか。損益計算書は「発生ベース」で書かれているからだ。売上が立った瞬間に利益として記録されるが、そのお金がまだ入っていないことは、PLの数字だけでは分からない。この仕組みは 「黒字なのに資金が足りない」運転資金の正体 でも詳しく触れているが、運転資金の存在を理解した瞬間、社長の表情が変わることが多い。「そういうことだったのか」と。数字に強い経営とは、この見えないズレを見える化する作業に他ならない。

まず整えるべきは1枚の資金繰り表

資金繰り改善で最初にやることを一つだけ挙げるなら、迷わず「資金繰り表をつくる」と答える。これがないまま感覚で回している会社が、埼玉の中小企業でも体感で6割はある。

ある鶴ヶ島市の小売業の社長は、月次の入出金をずっと頭の中と通帳残高だけで管理していた。そこで、向こう3か月ぶんの入金予定と支払予定を1枚のエクセルに落としてもらった。作業時間はたった90分ほど。ところが完成した表を見て、社長は2か月後に約200万円のショートが起きることに初めて気づいた。まだ2か月ある。だから対策が打てる。もし気づくのが2週間前なら、選べる手はほとんど残っていなかった。

資金繰り表の効用は「予測できること」に尽きる。過去を記録する試算表と違い、資金繰り表は未来を映す。作り方の手順は 資金繰り表のつくり方|まず整えるべき3つの表 に整理しているが、完璧なフォーマットより「毎月更新できる続けられる表」のほうが100倍役に立つ。最初は入金・支払・残高の3列だけでいい。3か月ぶんを埋め、毎月末に1か月ずらして更新する。この習慣が根づくと、資金繰りは「怖いもの」から「読めるもの」に変わっていく。

埼玉の地元金融機関とどう付き合うか

資金繰り改善を語るとき、銀行との関係は避けて通れない。埼玉には地方銀行・信用金庫・信用組合が地域に根ざして残っていて、この地元金融機関との距離感が、都心とは少し違う。

以前、川口市の卸売業の方から「調子が悪くなってから慌てて銀行に行ったら、思ったより渋かった」という相談を受けた。当然といえば当然で、金融機関は「困ってから来る会社」を警戒する。逆に、業績が悪くない時期から試算表を持って月1回顔を出し、事業の状況を共有している会社には、いざという時の対応が明らかに柔らかい。関係は貯金と同じで、平時にコツコツ積むものだ。

埼玉の信用金庫は地域密着で、担当者が経営の実態をよく見てくれる傾向がある。だからこそ、数字の裏づけがあると強い。融資交渉で見られる勘所は 銀行融資の交渉で見られる5つのポイント にまとめたが、要は「この会社は自社の数字を分かっている」と伝わるかどうか。試算表を毎月きちんと出し、資金の使い道を説明できる社長は、それだけで信頼が1段階上がる。金利0.2%の差より、この信頼の積み上げのほうが長い目では効いてくる。埼玉で長く事業を続けるなら、地元金融機関は競争相手ではなく伴走者にしたい。

運転資金を「必要額」で捉え直す

資金繰りが慢性的に苦しい会社の多くは、自社に本当はいくらの運転資金が必要なのかを数字で把握していない。感覚で「だいたい足りない」と感じているだけだ。

運転資金の目安は、ざっくり「売上債権+在庫−仕入債務」で計算できる。たとえば月商1,000万円で、売掛金の回収が平均60日、在庫が30日ぶん、買掛金の支払が30日だとすると、必要な運転資金はおおよそ月商の2か月ぶん、2,000万円前後になる。この金額を知っているかどうかで、借入の判断も在庫の持ち方もまるで変わる。

所沢市のある飲食関連の事業者と話したとき、在庫を1か月ぶん圧縮しただけで必要運転資金が約300万円軽くなった例があった。仕入頻度を週1回から週2回に変え、置いておく量を半分にした。それだけだ。売上は落ちていない。資金繰り改善というと「借りる」「返す」の話に寄りがちだが、実は回収を10日早める、在庫を10日減らす、支払を無理のない範囲で整える、こうした運用の見直しのほうが即効性がある。数字に強い経営の醍醐味は、こういう小さな調整が現金として返ってくる瞬間にある。財務の全体像は 中小企業の財務コンサルは何をする? でも解説しているので、あわせて眺めてみてほしい。

補助金・助成金は資金繰りの外側に置いて考える

埼玉県や各市町村は、中小企業向けの補助金・助成金の制度が比較的充実している。ものづくり補助金、事業再構築、県や市の独自制度まで含めると、選択肢は毎年数十を超える。ただ、ここに落とし穴がある。

補助金は原則「後払い」だ。先にお金を使い、審査を経て、数か月後に入金される。採択率が3割前後の制度も多く、当たったとしても入金は事業完了後。つまり、補助金をあてにして資金繰りを組むと、立て替え期間で逆にキャッシュが詰まることがある。ある行田市の製造業の方は、1,000万円の設備投資に対して補助金600万円の内示を受けたものの、入金までの半年間の立替資金が用意できず、危うく計画が止まりかけた。

補助金は「もらえたらラッキー」ではなく、資金計画に織り込んで初めて武器になる。使うタイミング、つなぎ資金の確保、自己負担ぶんの捻出。この三つをセットで設計する視点が要る。その考え方は 補助金は「当たったら使う」ではもったいない で掘り下げているが、補助金は資金繰りの本体ではなく、あくまで戦略の一部として外側に置いておく。この距離感が持てると、補助金に振り回されずに済む。

資金繰り改善は「習慣」で回り続ける

ここまで書いてきて改めて思うのは、資金繰り改善に劇的な一手はほとんどないということだ。資金繰り表を毎月更新する、試算表を金融機関に持っていく、在庫を10日ぶん減らす。地味な作業の積み重ねが、半年後、1年後に効いてくる。

実際、資金繰り表を作り始めて半年続いた会社は、続かなかった会社に比べて手元資金の余裕が明らかに違う。数字を毎月見ていると、季節ごとの波、取引先ごとの入金の癖、無駄な支出の存在が、少しずつ体に馴染んでくる。1年もすれば、通帳を見る前に翌月の残高がだいたい読めるようになる。この「読める」という感覚こそ、資金繰り改善のゴールに近い。

とはいえ、日々の業務に追われる中で、この習慣を一人で立ち上げて維持するのは簡単ではない。最初の3か月だけでも誰かが横で伴走してくれると、定着率がまるで違う。埼玉の中小企業の財務を眺めていると、続いた会社にはたいてい「相談相手」がいた。全体像をつかみたい方は 埼玉の中小企業向け財務コンサル や、無料で参加できる 財務セミナー一覧 をのぞいてみるのもいい。

数字に強い経営を、埼玉のこの場所で

埼玉で事業を続けるということは、都心の資本と地方の余白のあいだで、絶妙なバランスを取り続けるということだと思う。土地があるぶん設備も在庫も抱えやすく、都心が近いぶん競争も激しい。その中で会社を回し続ける燃料が、資金繰りだ。

私自身、中小企業診断士としていくつもの現場に立ち会ってきたが、資金繰りが安定した瞬間の社長の顔は、みんな少し似ている。肩の力が抜けて、未来の話をし始める。設備投資の話、新しい人の採用の話、次の世代への引き継ぎの話。資金繰りは、その未来を語るための土台にすぎない。でも、土台がぐらついていると、未来の話は不安に飲まれてしまう。

株式会社ザイプラは、東京・埼玉を中心に、神奈川・千葉、そしてリモートで全国の中小企業の財務を伴走支援している。中小企業診断士が、資金繰り表づくりから金融機関との関係づくりまで、いっしょに手を動かす。初回相談は無料だ。まずは今の資金繰りの悩みを、そのまま話してみるところから始めてほしい。会社のことは 株式会社ザイプラの支援内容 にまとめてある。通帳を見るのが少し怖い、その気持ちが「読める」に変わる日まで、隣で数字を眺める人がいる。それだけで、埼玉での経営は少し軽くなる。