中小企業のための財務コンサルティング事例【キャッシュフロー分析】
「黒字なのに、なぜかいつも資金繰りに悩まされる」
こうした声は、実は中小企業の経営者から最もよく聞かれる相談の一つです。
売上や利益が出ていても、会社は“キャッシュ=現金”がなければ回りません。
この課題に対して有効なのが、キャッシュフロー分析という財務手法です。
今回は、実際の財務コンサルティング現場で行ったキャッシュフロー分析の事例を通じて、
「どのように問題が可視化され、どんな改善が行われたのか」を具体的にご紹介します。
◆ 事例企業:IT業B社(従業員10名・年商8,000万円)
- 業種:受託システム開発、保守契約サービス
- 状況:売上は右肩上がりだが、資金繰りは常にカツカツ
- 経営者の声:「利益が出ているのに、なぜ資金が足りないのか分からない」
◆ 現状分析:PLでは黒字、しかし資金は減少
まずはB社の直近1年間の損益計算書(PL)を確認したところ、以下の通りでした:
- 売上高:8,000万円
- 経常利益:600万円
- 法人税:150万円
- 最終利益:450万円
「黒字で問題なさそう」という見た目でしたが、現預金の残高は前年よりも400万円減少していました。
社長は「黒字なのに、なぜ現金が減っているのか?」と混乱している様子でした。
◆ キャッシュフロー分析で明らかになった3つの要因
財務コンサルタントがキャッシュフロー計算書を独自に作成し、
3つの視点から資金の動きを見える化しました。
【1】営業活動によるキャッシュフロー(本業)
- 売上代金の入金が60日サイト(遅い)
- 一方、外注費・人件費は月末払いで即出金
- 結果:キャッシュインよりキャッシュアウトが先行していた
【2】投資活動によるキャッシュフロー(設備・ソフト購入)
- 年間で350万円のPC・開発ソフトを一括購入
- 補助金やリース活用をせず、自己資金で支払い
【3】財務活動によるキャッシュフロー(借入・返済)
- 3年前に借りた事業融資(返済月10万円)が継続中
- 借入の追加なし=資金補填の手段が不足
◆ 実施した改善施策
① 入金サイクルの見直し(営業ルールの変更)
- 新規契約時に「30日以内入金」を原則化
- 保守契約の月払い → 3ヶ月前払いへ切り替え交渉
② 設備購入の分割化・補助金活用
- IT導入補助金を活用し、設備購入費の半額を外部資金で調達
- リース契約に変更し、月々のキャッシュ負担を分散
③ キャッシュフロー予測表の導入
- 毎月の資金出入りを予測する「CF予定表」を作成
- 未来の資金ショートリスクを事前に発見し対策できる体制を構築
◆ 導入から半年後の成果
- 現預金残高が200万円増加
- 売掛回収期間:60日 → 35日に短縮
- 設備投資時の資金流出がゼロに
- 社長の精神的な余裕と意思決定のスピードが大幅改善
キャッシュフロー分析を通じて「利益」と「現金」の違いに気づき、
会社の資金運営に“戦略性”を取り戻した好事例となりました。
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